こんにちは
特許にはない意匠の制度として補正却下決定不服審判や補正後の意匠についての新出願があります。
特許の場合は補正が却下された場合は、最初の拒絶理由通知後なら新規事項の追加、シフト補正にならない範囲でさらなる補正をすることがあります。また手続補正書に加えて意見書も提出することができます。最後の拒絶理由通知の場合で適法でないということで補正却下された場合は普通はその次は拒絶査定となります。(まれに補正却下後に補正がないままでも特許査定となることもあるのでしょうが、普通は拒絶理由を解消するための補正なので、補正が認められないなら次は拒絶査定となります。)
しかし意匠では補正却下については、不服の場合は補正却下不服審判で争う形となります。そこで補正の却下が不当となるとまた審査に戻ってきます。補正後の内容で審査が続きます。(補正却下が正当なら補正しない内容での審査となります)
問題は補正却下の結論が出る時点ではかなり時間がたっており、そこから改めて出願すると他人の先行意匠が出願されている可能性もあり不利となります。そこで、意匠には補正後の意匠についての新出願(意匠法17条の3)が用意されています。
条文を見てみましょう。
(拒絶査定不服審判)
第四十六条
拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、その査定の謄本の送達があつた日から三月以内に拒絶査定不服審判を請求することができる。
2拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその請求をすることができる。
--------------- 意匠法 第四十六条 引用ここまで ------------
(補正却下決定不服審判)
第四十七条
第十七条の二第一項の規定による却下の決定を受けた者は、その決定に不服があるときは、その決定の謄本の送達があつた日から三月以内に補正却下決定不服審判を請求することができる。ただし、第十七条の三第一項に規定する新たな意匠登録出願をしたときは、この限りでない。
2前条第二項の規定は、補正却下決定不服審判の請求に準用する。
--------------- 意匠法 第四十七条 引用ここまで ------------
参考までに意匠の補正却下決定不服審判の請求件数を引用します。とても少ないですね。補正却下後の新出願については統計は見当たりませんでした。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2024/document/index/all.pdf
(補正後の意匠についての新出願)
第十七条の三
意匠登録出願人が前条第一項の規定による却下の決定の謄本の送達があつた日から三月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。
2前項に規定する新たな意匠登録出願があつたときは、もとの意匠登録出願は、取り下げたものとみなす。
3前二項の規定は、意匠登録出願人が第一項に規定する新たな意匠登録出願について同項の規定の適用を受けたい旨を記載した書面をその意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出した場合に限り、適用があるものとする。
--------------- 意匠法第十七条の三 引用ここまで ------------
補正後の新出願(第十七条の三)
また補正後の新出願という仕組みもあります。その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなすとあります。(その旨を特許庁長官に提出する必要はあります。)これは補正却下の結論が出るまで時間がかかる場合があるので、却下されてから新出願をやり直しても不利にならないような配慮となります。そうでないと、補正の結論がわからないまま、補正とは別に新出願を先にしておくことになるからです。
17条の3第2にある”前項に規定する新たな意匠登録出願があつたときは、もとの意匠登録出願は、取り下げたものとみなす。”
この意味を考えると、補正後の新出願をした後、もとの出願が取り下げられたことになため対象とする出願がもはやないので補正却下不服審判はできません。
補正後の新出願(手続補正書の提出日が出願日)をする順序と補正却下不服審判
- 補正却下の決定(謄本の送達)→補正後の新出願→元の出願取下げをみなす。
- 注意 たとえ謄本の送達から3月以内でも取下げがみなされた以後は、対象がないので補正却下不服審判はできない。意匠法47条1項
- 注意 たとえ謄本の送達から3月以内でも取下げがみなされた以後は、対象がないので補正却下不服審判はできない。意匠法47条1項
- 補正却下の決定(謄本の送達)→補正却下不服審判→(補正却下の審決)→補正後の新出願→元の出願取下げをみなす
- (この場合は補正却下の審決の前でも補正却下の謄本の送達から3月以内なら補正後の新出願は可能です)
別出願
逆に補正却下不服審判を先にすれば出願は取下げになっていないので出願は可能です。ただし補正却下不服審判中の出願が依然残っている状態なので、それとは独立して完全に新規出願をするということになります。出願日の遡及はありません。
設定登録後に要旨変更とされた場合の扱い
以下の意匠法9条の2は設定登録後の話です。
設定登録後に補正が、実は要旨の変更にあたるという判断になった場合はそれだけでは無効にはなりませんが、出願日が手続補正書を提出した時となります。その結果として出願日の観点で無効になる可能性はあります。
(願書の記載又は図面等の補正と要旨変更)
第九条の二
願書の記載(第六条第一項第一号及び第二号に掲げる事項並びに同条第二項の規定により記載した事項を除く。第十七条の二第一項及び第二十四条第一項において同じ。)又は願書に添付した図面、写真、ひな形若しくは見本についてした補正がこれらの要旨を変更するものと意匠権の設定の登録があつた後に認められたときは、その意匠登録出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。
--------------- 意匠法 第九条の二 引用ここまで ------------
(補正却下不服審判ではなく)拒絶査定不服審判の場合
(審査に関する規定の準用)
第五十条
第十七条の二及び第十七条の三の規定は、拒絶査定不服審判に準用する。この場合において、第十七条の二第三項及び第十七条の三第一項中「三月」とあるのは「三十日」と、第十七条の二第四項中「補正却下決定不服審判を請求したとき」とあるのは「第五十九条第一項の訴えを提起したとき」と読み替えるものとする。
2第十八条の規定は、拒絶査定不服審判の請求を理由があるとする場合に準用する。ただし、第五十二条において準用する特許法第百六十条第一項の規定によりさらに審査に付すべき旨の審決をするときは、この限りでない。
3特許法第五十条(拒絶理由の通知)の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。
--------------- 意匠法 第五十条 引用ここまで ------------
意匠の補正却下不服審判の条文の拒絶査定不服審判への準用
17条の2 (補正の却下)
17条の3 (補正後の意匠についての新出願)
18条 (意匠登録の査定)
52条 (特許法の準用)
ただし拒絶査定後に拒絶査定不服審判をした場合、拒絶査定不服審判での補正の却下で新出願をする場合は、それができる時期は拒絶査定前の補正却下のとき(謄本の送達から3月以内)と比較して短くなります。
このときの補正後の意匠の新出願は拒絶査定不服審判での補正の却下の決定の謄本の送達があった日から30日と期間が補正却下の決定より期間が短く設定されています。ちなみにこれは拒絶査定不服審判に対しての審決取消訴訟の出訴期間と同じです。
青本には拒絶査定不服審判での補正の却下の決定の謄本の送達があった日から30日以内としている点について以下の理由が説明されています。以下引用します。
なお、平成二〇年の一部改正において、補正却下の決定の謄本の送達後に審決を行ってはならない期間、及び補正却下後の新出願が可能な期間については、一項に読替規定を置くことにより、従来どおり三〇日とすることとした。
これは意匠法での拒絶査定不服審判中に審判官によってなされた補正却下(五〇条一項において準用する一七条の二第一項)に不服がある場合には、東京高等裁判所に出訴することができるが(五九条一項)、この出訴期間については、審判において審査と比べてより慎重な審理が行われるため、それに対して取消訴訟を行うかどうかの判断は比較的容易に行うことができると考えられることから、決定の謄本の送達があった日から三〇日とする現行制度を維持することとしたことによるものである(五九条二項において準用する特一七八条三項は平成二〇年の一部改正において改正されていない。)
--------------- 意匠法 青本 引用ここまで ------------