Studying Intellectual Property Law

みなさまの知財学習のお手伝い

特許出願の分割の実体的要件

こんにちは

 

特許の分割で学習しにくいのは実体的要件でしょう。

44条より審査基準を読むのがいいと思います。

審査基準の中で

明細書 = 明細書、特許請求の範囲又は図面

となっていること(明細書だけでなくクレームがも含んでいること)を押さえたうえで読んでみましょう。

また、原出願の出願時期ですが、出願当初と分割直前という用語に注意してください。

 

特許審査基準より引用

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/06_0101.pdf

 

2.2 特許出願の分割の実体的要件
 特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであるから、以下の(要件 1)及び(要件 3)が満たされる必要がある。
また、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという特許出願の分割の効果を考慮すると、以下の(要件 2)も満たされる必要がある。


(要件 1) 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと(3.1 参照)。
(要件 2) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.2 参照)。
(要件 3) 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること(3.3 参照)。


 ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期(注)に特許出願の分割がなされた場合は、(要件 2)が満たされれば、(要件 3)も満たされることとする。

これは、原出願の分割直前の明細書等に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書等に記載されていた事項については、補正をすれば、原出願の明細書等に記載した上で、特許出願の分割をすることができるからである。 

--------------- 特許審査基準 引用ここまで ------------

 

(1)は新しくした分割出願の中に直前の原出願の内容がすべてあるなら、内容がかぶっていますのでそもそも分割しているとはいえないでしょうということですね。審査基準にも書いてありますが、普通はこのケースは発生しないでしょう。

(2)はそもそも当初の出願にないことを分割に入れるのは、補正でいう新規事項の追加と同じことになり認められないでしょう。

(3)は分かりにくいですね。出願当初と分割直前の明細書で内容が違うときです。

明細書自体は普通は内容は削らずに分割の前後でも同じ内容にすると思いますが、クレームに関しては複数回分割するとき拒絶理由を回避するために、分割する毎に徐々に削っていく(文言を減らすという意味ではなく、範囲を減縮していく)と後で範囲を変更したいと思っても直前の明細書には当初の内容がもはや残っていないこともありえます。

ただし、これは補正ができる時期なら救済されるようになっています。

 

ここで補正の時期と分割についておさらいです。

44条1項にあるように、補正できるときは、分割もできるということです。

逆に分割はできるが、補正ができない時期もあるということです。

以前に説明しましたので詳しくは以下をご参照ください。

ipstudy.hatenablog.com

 

 ただし、原出願の明細書等について補正をすることができる時期(注)に特許出願の分割がなされた場合は、(要件 2)が満たされれば、(要件 3)も満たされることとする。

これは、補正が認められる状況では、原出願に書いてあれば直前の出願になくても(補正できるので)分割も同様によしとするということです。

 

特許審査基準

5.2 拒絶査定不服審判の請求日と同日に特許出願の分割がなされた場合の取
扱い
 原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に特許出願の分割がなされた場合には、審査官は、特許出願の分割が拒絶査定不服審判の請求と同時(補正をすることができる時期)になされたものとして、特許出願の分割の実体的要件を判断する(2.2 参照)。ただし、当該特許出願の分割がなされた時が、拒絶査定不服審判が請求された時と同時でないことが明らかである場合は、この限りでない。 

--------------- 特許審査基準 引用ここまで ------------

拒絶査定不服審判と同時に補正をする場合は、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内で補正ができます。

分割でも補正と同様に(原出願の分割直前の明細書等に記載ではなく)原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内で分割ができるようにするということです。

 

分割と補正は、新規の独立した出願という点では違いますが、実際には分割は補正に近いものと考えるといいかと思います。

 

 

特許の分割可能期間の延長、追完 特許法44条

こんにちは

 

期間の延長があった場合の分割の扱いです。

44条5項、6項は特許料納付期限又は拒絶査定不服審判の請求可能期間が延長された場合に、分割可能期間も同様に延長させるということです。特許法一般での法定期間や指定期間の期間の延長については以前のブログをご参照いただければと思います。

 

ipstudy.hatenablog.com

 

(特許出願の分割)
第四十四条

(1項ー4項略)
5第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条又は第百八条第三項の規定により同条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。

6第一項第三号に規定する三月の期間は、第四条の規定により第百二十一条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。

7第一項に規定する新たな特許出願をする者がその責めに帰することができない理由により同項第二号又は第三号に規定する期間内にその新たな特許出願をすることができないときは、これらの規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内にその新たな特許出願をすることができる。

--------------- 特許法 引用ここまで ------------

44条7項については、新たな特許出願をする者が責めに帰することができない理由での延長するものです。

条文で主語が”特許出願人”といっていないのは、不測の事態が発生してまだ出願できていないからでしょう。

ちなみに興味本位で検索をしてみると、特許法の条文に”出願人”はたくさんありますが、”特許出願をする者”は44条以外には第四十六条の二 (実用新案登録に基づく特許出願) 第三項にしかないようです。

また、”特許を受けようとする者”は特許法には7つほど見つかりました。

 

 

 

特許の分割と分割時の提出書面の省略 特許法44条

こんにちは

今回は特許の分割の続きです

 

(特許出願の分割)
第四十四条

(1項ー2項は前回を参照ください)

3第一項に規定する新たな特許出願をする場合における第四十三条第二項(第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十三条第二項中「最先の日から一年四月以内」とあるのは、「最先の日から一年四月又は新たな特許出願の日から三月のいずれか遅い日まで」とする。

 

4第一項に規定する新たな特許出願をする場合には、もとの特許出願について提出された書面又は書類(第四十三条第二項(第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出された場合には、電磁的方法により提供されたものを含む。)であつて、新たな特許出願について第三十条第三項、第四十一条第四項又は第四十三条第一項及び第二項(これらの規定を第四十三条の二第二項及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。

--------------- 特許法44条 引用ここまで ------------

3項のパリ優先権での優先権証明書の提出についてですが、通常は最先の出願から1年4月ですが、分割の場合にはさらに”新たな特許出願の日から三月のいずれか遅い日まで”と追加されています。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/02-12.pdf

 

4項は、すでに原出願で提出している書類については、分割出願では再度出願する必要はないと言っています。青本には以下の説明がありますので引用します。

 第三十条第三項 新規性の喪失の例外のその旨と新規性の喪失の例外の証明書
 第四十一条第四項又は   国内優先権の主張と先の出願の表示
 第四十三条第一項及び第二項  パリ条約による優先権主張と証明書

 

つまり4項では原出願のときにすでに提出している書類は再度の提出は不要ということですが、パリ優先権で優先権証明書を出していなかったときは3項により後から提出可能ということです。

3項にあるようにパリ優先権の優先権証明書は後の出願から出せますが、優先権主張するには優先期間の縛りがありますので、分割の原出願(先の出願)で優先期間内(出願日から1年以内)に事前に優先権主張をしておく必要はあります(特許法43条1項)。分割時に優先権証明書だけを後から出しても認められません。

 

 

 

特許の分割の要件と効果 特許法44条

こんにちは

 

特許の分割は補正と並び、実務でもよく使われる手段かと思います。

分割は単一性違反で拒絶された場合の救済になります。さらに、パリ条約にあるように単一性違反を指摘されなくても、自己の発意でも分割できます。

 

パリ条約4条(優先権)

(1) 審査により特許出願が複合的であることが明らかになつた場合には,特許出願人は,その特許出願を2以上の出願に分割することができる。この場合において,特許出願人は,その分割された各出願の日付としてもとの出願の日付を用い,優先権の利益があるときは,これを保有する。
(2) 特許出願人は,また,自己の発意により,特許出願を分割することができる。この場合においても,特許出願人は,その分割された各出願の日付としてもとの出願の日付を用い,優先権の利益があるときは,これを保有する。各同盟国は,その分割を認める場合の条件を定めることができる。

--------------- パリ条約4条 引用ここまで ------------

次に特許法で分割といえば特許44条ですね。この条文番号は大頻出ですので国内優先権の41条、パリ優先権の43条とならんで覚えておいてください。(たぶん繰り返しているといつのまにか覚えてしまうのですが。)

 

(特許出願の分割)
第四十四条

特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。


2前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない

(以下略 長いのでいったんここまでとします。)

--------------- 特許法44条 引用ここまで ------------

いうまでもないと思いますが、1項にあるように分割できるのは出願人です。出願人は完全に一致しなければならいので、原出願で出願人が複数いる場合は出願人全員の名前で分割出願することになります。

 

分割できる時期ですが、1項1号にあるようにまず補正できるときは、分割ができるということです。

逆に分割はできるが、補正ができない時期もあるということです。

 

分割できる時期としては、特許査定なら30日以内、拒絶査定なら3か月以内となります。

前提として特許庁に係属していることが求められますので、特許査定なら30日以内でも、特許査定ですぐに特許料を支払って設定登録されてしまうと、たとえ30日以内でも分割できなくなります。

ここまでは大原則です。

ただし例外がありますね。

審査基準に解説があります。

  • 前置審査において特許査定がされた場合 (第 163 条第 3 項において準用する第51 条)
  • 拒絶査定不服審判において拒絶査定が取り消され、審決により審査に差し戻されて、特許査定がされた場合 (第 160 条第 1 項及び第 51 条)
  • 拒絶査定不服審判において拒絶査定が取り消され、審決により審査に差し戻さ
    れて、再び拒絶査定がされた場合(第 160 条第 1 項及び第 49 条)

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/06_0101.pdf

 

効果としては、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなすとあるので出願日は原出願と同じになります。29条の2の他の特許出願にしないのは特許庁側で改めて分割内容について先行文献のサーチをすることになると作業負担が重いからですね。

 

さらに2項の第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。とあります。

特許法第三十条第三項は何でしょうか。30条もよく問われる条文ですね。

(発明の新規性の喪失の例外)
第三十条


3前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

--------------- 特許法30条 引用ここまで ------------

これは新規性の喪失の例外の証明書を提出するとき、原出願で提出していなかった場合に分割出願時に提出するため、特許出願の日から三十日以内という制限を満たせるように、日付を遡らないように扱うためのものです。

 

次回は優先権書類等の提出について44条の残りの項を見てみたいと思います。

 

 

 

総則 法定期間の延長、指定期日の延長

こんにちは

期間の延長についてみてみましょう

 

特許法4条では法律で規定されている期間(法定期間)の延長です。もともと法律で期間が決まっているものです。

特許法5条は期日の指定の変更(指定期間の延長)です。特許庁長官、審判長又は審査官が期間を指定した場合です。

 

条文を見てみます。

(期間の延長等)
特許法 第四条

特許庁長官は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、請求により又は職権で、第四十六条の二第一項第三号、第百八条第一項、第百二十一条第一項又は第百七十三条第一項に規定する期間を延長することができる。

 

青本には4条について以下の解説がありましたので引用します。

四六条の二第一項三号は第三者による実用新案技術評価の請求があった旨の最初の通知後において実用新案登録に基づく特許出願をすることができる期間、

一〇八条一項は特許料の納付期限、

一二一条一項は審判を請求することができる期間、

一七三条一項は再審を請求することができる期間である。

〔字句の解釈〕
1〈遠隔又は交通不便の地〉旧法の取扱いとしては遠隔又は交通不便の地としては外国の地、伊豆諸島・小笠原諸島(東京都)、舳倉島(石川県)、南西諸島(鹿児島県)、沖縄周辺諸島、北海道周辺諸島が挙げられる。
なお、旧法においては外国・又は遠隔若しくは交通不便の地となっているが、現行法においては、外国は全て遠隔の地で読むことにした。青本引用ここまで)

 

特許法 第五条

特許庁長官、審判長又は審査官は、この法律の規定により手続をすべき期間を指定したときは、請求により又は職権で、その期間を延長することができる。
2審判長は、この法律の規定により期日を指定したときは、請求により又は職権で、その期日を変更することができる。
3第一項の規定による期間の延長(経済産業省令で定める期間に係るものに限る。)は、その期間が経過した後であつても、経済産業省令で定める期間内に限り、請求することができる。

--------------- 特許法 引用ここまで ------------

本来期間の延長は締め切り前にしないといけないのですが、5条3項はPLT条約により締め切り後でも経済産業省令で認めているものであれば、延長が申請できるとしたものです。4条には同様の規定、法定期間の経過後に延長をすることはありません。

 

次に不変期間についてです。

(審決等に対する訴え)
特許法 第百七十八条

取消決定又は審決に対する訴え及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書又は第百二十条の五第二項若しくは第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄とする。
2前項の訴えは、当事者、参加人又は当該特許異議の申立てについての審理、審判若しくは再審に参加を申請してその申請を拒否された者に限り、提起することができる。
3第一項の訴えは、審決又は決定の謄本の送達があつた日から三十日を経過した後は、提起することができない。
4前項の期間は、不変期間とする。
5審判長は、遠隔又は交通不便の地にある者のため、職権で、前項の不変期間については附加期間を定めることができる。
6審判を請求することができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。

--------------- 引用ここまで ------------

(間違えやすい漢字はですね。付加期間ではなく附加期間です。)

 

不変期間 裁判所などへの訴えの提起の期間で、裁量では延長はできないもの 

ただし交通不便等の理由で附加期間を追加することは可能

 

総則 期間の計算 特許法とPCT規則の違い

こんにちは

優先期間に限らず、特許や他の知財法では期間の話がよく出てきます。

基本は民法に従いますが、特許法や条約などでいろいろと細かな点で違うことがあります。

 

日本の特許法の期間の計算

(期間の計算)
第三条この法律又はこの法律に基く命令の規定による期間の計算は、次の規定による。
一期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
二期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う。月又は年の始から期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
2特許出願、請求その他特許に関する手続(以下単に「手続」という。)についての期間の末日が行政機関の休日に関する法律(昭和六十三年法律第九十一号)第一条第一項各号に掲げる日に当たるときは、その日の翌日をもつてその期間の末日とする。

--------------- 特許法 引用ここまで ------------

初日不算入です。応答日は起算日から数えますが、その日がなければ前にもどりその月の最後の日になります。

例えば令和6年2月29日(今年はうるう年でしたね)から1年(12月)とあると、来年はうるう年ではありませんので令和7年の2月29日とはならずに、令和7年2月28日となります。

例えば令和6年2月29日から14月とあると、令和7年5月1日から1日引いたらで令和7年の4月31日は存在しないので、令和7年4月30日となります。

来年の祝日はたしか令和7年4月29日だと思うのですが、もし間違っていたらすいません。期間の末日は手続を庁に出すものなのかによります。

 

PCT規則も見てみましょう。

PCT 第八十規則
期間の計算
80.1 年をもつて定めた期間
期間を定めるのに年をもつてしている場合には、期間は、当該事象が生じた日の翌日から起算し、該当するその後の年において当該事象が生じた月に応当する月の当該事象が生じた日に応当する日に満了するただし、応当する月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
80.2 月をもつて定めた期間
期間を定めるのに月をもつてしている場合には、期間は、当該事象が生じた日の翌日から起算し、該当するその後の月において当該事象が生じた日に応当する日に満了する。ただし、その月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
80.3 日をもつて定めた期間
期間を定めるのに日をもつてしている場合には、期間は、当該事象が生じた日の翌日から起算し、該当する日数の最終の日に当たる日に満了する。

80.4 現地の日付
(a) 期間の起算日の日付は、当該事象が生じた時の当該地における日付とする。
(b) 期間の末日の日付は、必要な文書が提出され又は必要な手数料が支払われるべき地における日付とする。
80.5 期間の末日が就業日でない日又は法定の休日に当たる場合
文書及び手数料が国内官庁又は政府間機関に到達すべき期間の末日が、

(ⅰ) 国内官庁若しくは政府間機関が公の事務の処理のために公衆に対して開庁していない日に当たる場合、
(ⅱ) 国内官庁若しくは政府間機関の所在地において通常の郵便物が配達されない日に当たる場合、
(ⅲ) 国内官庁若しくは政府間機関が二以上の地に所在する場合、国内官庁若しくは政府間機関の所在地のうち少なくとも一において法定の休日に当たり、かつ、その国内官庁若しくは政府間機関に適用される国内法令が、国内出願について、この場合にはその期間は後続の日に満了すると定めている場合、
(ⅳ) 国内官庁が特許を付与する任務を有する締約国の政府の当局である場合、その締約国の一部において法定の休日にあたり、かつ、その国内官庁に適用される国内法令が、国内出願について、この場合にはその期間は後続の日に満了すると定めている場合、には、その期間は、それらの日のいずれにも該当しない後続の最初の日に満了する。

80.6 文書の日付
国内官庁又は政府間機関の文書又は書簡の日付の日から期間が開始する場合には、関係者は、当該文書又は書簡がその日付の日よりも遅い日に郵便で発送されたことを証明することができる。この場合には、期間の計算上、実際に郵便で発送された日を期間の初日とする。当該文書又は書簡が郵便で発送された日にかかわらず、出願人が、国内官庁又は政府間機関に対し、当該文書又は書簡がその日付の日の後七日よりも遅い日に受領されたことを国内官庁又は政府間機関が認める証拠を提出する場合には、国内官庁又は政府間機関は、当該文書又は書簡の日付の日から開始する期間がその日付の日の後七日を超える日数と等しい日数を追加した日に満了するものとして取り扱う。
80.7 就業日の終了時
(a) 所定の日に満了する期間は、文書が提出され又は手数料が支払われるべき国内官庁又は政府間機関がその日の事務を終了する時に満了する。
(b) (a)の規定にかかわらず、国内官庁又は政府間機関は、該当する日の午後十二時まで期間を延長することができる。 

--------------- PCT規則 引用ここまで ------------

ここで意地悪な問題

PCTの期間の計算では、優先日が2016年2月29日のとき「優先日から19か月」の期間はいつ終了するでしょうか。

これはある試験で実際に出題されたことがある問題です。

わたしもまんまと引っかかってしまいした。やられましたね。

 

PCT 第八十規則 月をもつて定めた期間
期間を定めるのに月をもつてしている場合には、期間は、当該事象が生じた日の翌日から起算し、該当するその後の月において当該事象が生じた日に応当する日に満了する。ただし、その月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

 

特許法的に期間を考えると、2016年3月1日から19月足したら2017年10月1日で、前日、つまりその前の月の終わりは2017年9月30日ということになります。満了日は暦に従った月末になるわけです。しかしPCTではこのようには計算しません。

PCT規則だと2016年2月29日(当該事象が生じた日)から次の日3月1日に期間が開始するのですが、19か月後の期間の満了日はそのまま(当該事象が生じた日)であり、答えは2017年9月29日となります。

中には考えすぎの人もいて

2016年3月1日から19月は2017年10月1日(日曜日)で、その前の月の終わりは2017年9月30日(土)だがこれは土曜日で閉庁日だから2017年10月2日(月)と答えた人もいたとか。何について聞かれているのかを勘違いするとまったく違う答えになってしまいますので問題文を読むときはPCTの期間の話である点を押さえましょう。

 

 

 

相当な注意(due care)と故意ではなかった(unintentional)

こんにちは

PCTの優先権の回復で出てきたキーワードを掘り下げてみます。

もともとはPLT条約での言葉です。

 

特許法条約(PLT)の概要 | 経済産業省 特許庁

締約国は、官庁に対する手続のための期間を出願人等が遵守せず、その直接の結果として出願又は特許に係る権利の喪失を引き起こしたときは、出願人等が相当な注意(due care)を払ったにもかかわらず当該期間を遵守することができなかったものであること又は、締約国の選択により、その遅延が故意ではなかった(unintentional)ことを当該官庁が認めること等を条件として、当該出願又は特許に係る権利を回復する旨を定めなくてはなりません(PLT第12条)。

--------------- 引用ここまで ------------

うっかりミスによる手違いの場合は故意ではなかった(unintentional)で救済できます。なお、出願人が優先権は当初は不要と思って意図的に優先権主張していなかったようなケースでは後で必要とわかっても回復はできません。なお回復においては通常とは違う特別料金を徴収して(回復手数料)もいいことになっています。多くの国で実際にそうなっています。

相当な注意(due care)を払ったと故意ではなかった(unintentional)をどこで線引きするかは微妙な点もありますが、以下のリンクに導入時の検討経緯があります。

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/seisakubukai-30-shiryou/01.pdf

 

これ以外に、特許法(他の知的財産法にも)には不責事由があります。

”その責めに帰することができない理由”と条文にある場合です。

これは天災などの自分では注意のしようがないものが相当します。

よくある条文の規定では、”その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内に” 何らかの手続きをするようなケースです。

 

例として特許法43条を見てみます。

(パリ条約による優先権主張の手続)
第四十三条
(略)
特許庁長官は、第二項に規定する期間内に優先権証明書類等又は前項に規定する書面の提出がなかつたときは、第一項の規定による優先権の主張をした者に対し、その旨を通知しなければならない。

7前項の規定による通知を受けた者は、経済産業省令で定める期間内に限り、優先権証明書類等又は第五項に規定する書面を特許庁長官に提出することができる。

8第六項の規定による通知を受けた者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に優先権証明書類等又は第五項に規定する書面を提出することができないときは、前項の規定にかかわらず、経済産業省令で定める期間内に、その優先権証明書類等又は書面を特許庁長官に提出することができる。

--------------- 引用ここまで ------------

例えば特許法43条パリ条約による優先権では7項と8項がありますが、7項は出願人(と出願人の代理人)の間違い、勘違いに対して救済であり、8項は出願人が自分ではコントロールできない天災等により期限を徒過した場合の救済となります。

 

なお、PLT条約に沿って、優先権の回復だけでなくいろいろな手続きにおいて故意によるものではない条件に改正されています。以下のリンクをご参照ください。

「故意によるものでないこと」による期間徒過後の救済について | 経済産業省 特許庁