こんにちは
優先期間中に先の出願をした後、優先権主張を伴う出願(つまり後の出願)が完了する前に、第3者が同じ出願をした場合はどうなるのでしょうか。
パリ条約の4条Bを見てみましょう。わかりやすくするために意図的に区切りや注を入れています。元の文書はお手持ちの条文集をご参照ください。
パリ条約4条B
すなわち,A(1)に規定する期間の満了前(注つまり優先期間の満了前)に他の同盟国においてされた後の出願は,
その間(注つまり先の基礎出願と後の優先権主張の出願の間)に行われた行為,例えば,他の出願,当該発明の公表又は実施,当該意匠に係る物品の販売,当該商標の使用等によつて不利な取扱いを受けないものとし,
また,これらの行為は,第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。
(後半部分)
優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては,各同盟国の国内法令の定めるところによる。
優先期間中の第3者の他の出願
前半部分にあるように優先期間中に他の出願があっても、不利な取り扱いはうけないということで、拒絶などされず優先権が認められます。
第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない、とは難しい日本語ですが、例えば他の出願があっても特許権は認められません。また権能とは法律上の権利行使することなので、(何か権利にあたるものがあったとしても)権利行使をすることはできません。
優先日前の第3者の権利
後半部分の優先権の基礎となる最初の出願の日前というのは、例えば先使用権に相当するものです。
パリ条約にあるように先使用権というのは各国の裁量になっており、存在しないこともありますし、仮にあったとしても要件や権利範囲が日本とは違うと可能性があります。
日本の先使用権79条も、要件がいくつかあり日本国内で実施または実施の準備など、先使用権が認められるにはハードルがあります。日本で先使用権があるのだから同じものが海外でもあるだろうと考えていると要件が違い適用できないこともあるのです。
なお79条先使用権と69条2項2号の違いについては前回触れていますので今回は省略します。ご興味のあるかたはリンクを参照ください
優先権の話からそれましたが、ノウハウとして特許出願しない判断も見極めが重要ですので各国の先使用権の要件は知財部員としては押さえておきたいポイントです。
特にノウハウとして秘匿し、出願しない決断をした場合は、将来他社が同一内容を出願するリスクもあります。万一そうなった場合に本当に先使用権が主張できるのかターゲットとしている海外市場も含めて検討が必要です。
オープンクローズ戦略では出願しない決断も重要な判断ですが、リスクもありますので先使用権については資格試験の観点だけでなく実務的にも押さえておきたいところです。
ご参考までに、特許庁のホームページに先使用権の特集ページがありますのでぜひご覧ください。
先使用権制度の円滑な活用に向けて―戦略的なノウハウ管理のために―(第2版)
ノウハウの管理には営業秘密としての適切な管理も課題ですが、これは別途、不正競争防止法を扱うときに説明できたらと考えています。